高性能インプラント治療・技術を推進する「光機能化インプラントグローバルネット」

チタンがインプラントに利用されている理由

 現在,医科・歯科領域を問わず、インプラント治療にはチタンまたはチタン合金が使われています。チタンは、化学的に安定で、さびたり劣化したりせず、生体に害が少ないとして使用されています。

このチタン製のインプラントと骨が強固に接着することがインプラント治療成功の条件ですが、これまでチタン表面の骨の出来る性能は変わらないという前提のもとに使われてきています。

現存のインプラント治療の限界

1.現状ではこれ以上の成功率は期待できない

 世界で報告されているインプラント成功率は,90~98%です。このデータは、比較的簡単な症例、そして比較的熟練した歯科医師が行った症例に基づいています。先日行われた米国インプラント学会(Academy of Osseointegration)主催のインプラントサミット(小川隆広教授がオピニオンリーダーとして招待されている)でのディスカッションで得られたコンセンサスでは、このような条件下でも現実的な成功率は、せいぜい92%程度であるだろうとの見解がだされました。そうすると、世界では毎年、30万本以上のインプラントが失敗し、日本でも7万本程度のインプラントが失敗に終わっていることになります。いわゆる粗面(ラフサーフェス)がインプラント表面に登場した1995年前後から現在まで、その後のインプラント技術の向上によって、成功率がさらに向上したという報告は見ることができません。さらに、現代のインプラント治療の主流である、骨造成やサイナスリフトが必要な複合症例、また喫煙、高齢などを伴う難症例においては、成功率はさらに低下し、60-85%となるのが現状です。

2.現状ではこれ以上の治癒期間の短縮は極めて難しい

 1995年前後、いわゆるラフサーフェスをもつインプラントが登場したことにより、補綴物を装着するまでに必要な治癒期間(つまりインプラントと骨が強固に接着するのに要する期間)は大幅に短くなりました。しかし、その後は、現在に至るまで、さらなる治癒期間の短縮を実証した表面技術はありません。つまり、1995年以降、ラフサーフェスと比較して、骨を早く、多く創ることを可能にした技術は開発されていません。

3.現状ではこれ以上のインプラント治療の適応症例の拡大は難しい

 現代の発達した治療では、インプラントの使用を可能にするために、多くの症例において、術前手術が行われます。骨造成、サイナスリフトなどです。このような難症例、複合症例において、上記と同様に、現在使用されている、あるいは、最近紹介された新しいインプラントサーフェスが、ラフ―サーフェスと比較して、特にこれらの条件を克服したという報告はありません。このように、臨床的に大きな意義を見出すほどの、より優れたインプラント表面を開発する技術は限界に来たことを多くの論文で指摘されているのです。

チタンの性能は時間と共に低下する?!

 過去45年のインプラント研究の歴史で、動物ならびにヒトの報告から判断して、骨とインプラント接触率、あるいは骨の包囲率は、平均で50%程度、最大でも70%程度しかないことが分かっています。それ以外の部分は骨の代わりに線維性組織によって覆われるか、何の組織もできないのが普通です。それらの部分には、後に、新たに骨ができることはまれです。つまり、現在の技術では、インプラント周囲にこれ以上の骨を造ることに限界が生じたのです。このことが理由で、上記のあらゆる臨床的改善の限界にも達したのです。では、骨接触率はまぜ100%にならないのでしょうか。なぜ100%にできないのでしょうか。インプラント治療が開始され以来過去45年間、この疑問に、世界の誰も答えることができませんでした。


 2009年に世界的に権威ある生体材料雑誌「Biomaterials」に「チタンの時間的な劣化現象」(チタンエイジング現象)という衝撃的な内容の論文がUCLA(カリフォルニア大学ロサンジェルス校)の小川隆広教授の研究チームより発表されました。前述のように、これまで、チタンの表面性能は、時間とともに変わらないものとされてきました。

 しかし、その研究は、チタン表面は、加工してからすぐ(新鮮)の状態では非常に高い骨結合能を有しているが、使用せず保管した場合は、その骨結合能は時間経過に伴って減少することを発見したのでした。加工直後で新鮮な表面と加工後4週間経過した古い表面のインプラントを動物の骨組織に埋入した場合、古いインプラントの骨接触率は、 50%程度の骨接触率を示したのに対し、加工直後の新鮮面では約90%に達しました。つまり、チタン表面を作製してからの時間経過によって表面が持っている骨結合能力に違いが出てきてしまうことが発見されたのです。そしてこの現象が、バイオロジカルエイジングと定義されたのです。

 どのような変化がインプラント表面に起ったのでしょうか。ここでは、表面の濡れ性(親水性)の変化を紹介します。右の図からも明らかなように、表面を加工してすぐの新鮮な状態では、チタンは超親水性(水とのなじみが良い)の状態です。しかし、表面を加工してから4週間保管すると表面は疎水性(水とのなじみが悪い)になってしまいます。ただ、ここで親水性だけが、エイジングを示す尺度ではありませんし、親水性であれば、エイジングしていないという証明になるということでもありません。他にも、時間とともに変化する重要な表面特性があるのです。それらのことは、研究会主催のセミナーで随時最新の情報をお知らせしています。


 そして、チタンの生物学的老化、あるいはバイオロジカルエイジングは、チタンであればどのようなサーフェスタイプでも、起こることも併せて明らかになりました。つまり、現在使用されているインプラントは、エイジングした状態にあるのです。そして、そのために骨形成能力には、自ずと限界があるということがわかったのです。さらには、次の項に示す大変重要で臨床に直結した問題を提起したのです。

チタンのエイジングが与える臨床的インパクト

 残念ながら、現状の科学技術では、チタンのエイジングを予防する手段はありません。チタンのエイジングに関して一流科学雑誌に発表された多くの論文にて、以下の重要な臨床的懸念が示唆されており、そしてそれらの解決のために、実効性のある技術開発の重要性、そして緊急性が同時に述べられています。

1.現在の使用されているインプラントは最高の状態でないという可能性

インプラントの現在の流通・販売形態を考えると、エイジングの現象を回避することはほぼ不可能と考えられます。例えば、インプラントは製造されてから3日以内には、比較的高い能力を維持していることがわかっていますが、製造後3日のうちにユーザーである歯科医師がインプラント材が届くことはまず不可能です。このことは、現在使用されているインプラントは、少なからず、その能力の低下段階にあるということを意味します。さらには、日本国内で使用されているほとんどのインプラントは外国製であり、これよりずっと(品質管理の問題から少なくとも3ヶ月以上は経過している)老化していると推測されます。

2.使用するインプラント間で能力に差がある可能性

現存のインプラントには、製造年月日の記載はありません。よって、治療を施す現場の歯科医師にとって、手にしたインプラントがどの程度の年月日が経過したものか、あるいは骨結合の能力がどの程度低下しているのかを知る手段はありません。

 使用するインプラントの古さが異なっていた場合、それは骨結合能力の差につながります。例えば、ある患者に3本のインプラントを埋入する場合、その3本のインプラントの能力が同じであるという保証はありません。また、2人の患者にインプラント治療を施す場合、それぞれの患者に使用されるインプラントが、同じ能力であるという保証もありません。インプラントには製造年月日の記載がないために、これらのことを把握することができないのです。

このように過去に例がない、とてつもなく大きく、重要な臨床的課題が明らかとなった今、我々は患者のために、そして、より良い治療効果をもたらすためにどのような行動をとるべきでしょうか。先にも述べましたが、現在の技術では、チタンのエイジングを予防する有効な手段はありません。しかし、チタンのエイジングを克服することはできるのです。それが、光機能化技術なのです。